- ビーバー教授の留学道場 -

第52回<保育>カナダに渡って気づいた、保育士として伝えたいこと

 

保育留学を経験した三輪ひかりさん

三輪ひかりさん
Border less Educator(保育士・エディター・ライター)。

日本とカナダにて保育士を経験。現在は園に属さず、子ども・幸せ・本質というキーワードを軸に、子育てメディア「コノビー」、保育士向けメディア「ほいくる」での編集や、ワークショップ、保育士向けの研修などを通じ、個や社会に向けて活動中。

<保有資格> ・保育士資格 ・幼稚園教諭免許・カナダ保育士資格・米国NLP協会認定プラクティショナー・LABプロファイル プラクティショナー

 

保育業界は今、急速に進むグローバル化の影響をもっとも受けている業界の一つと言っていい。国内で就職した日本人保育士が、子どもたちの言語・文化の多様性に対応しきれず戸惑うケースが急増している。親の仕事の都合上、海外の保育園で幼少期を過ごす子どもたちも珍しくない。国内外問わず、現場では、多様な国際家族に質の高い保育を提供できる人材が求められている。

そこで今回は、日本とカナダ双方での保育園勤務経験※1を活かして、それぞれの親子の個性を輝かせるワークショップの開催や執筆活動に取り組む “Border less Educator”(国境なき共育者)の三輪ひかりさんに、保育業界で求められるインターナショナル・スキルについて、お話を伺った。

 

カナダに渡って気づいた、保育士として伝えたいこと。

保育留学の経験を日本で活かす三輪さん

三輪さんは現在、Kodomo.binの共同代表として、都内を中心に多彩な英語ワークショップを開催されています。親も子も気持ちよく五感を開放できる身体あそびや、アーティスティックな造形あそびが好評です。また、保育士による保育士のための研修「ホイクホンシツカイギ」の主宰者、子育てメディアのライターなど、いくつもの顔をお持ちですね。共通するコンセプトは何ですか?

三輪:多様性を尊重する精神文化が息づくカナダで得た気づきをベースに、子どもにも大人にも「自分らしく生きる幸せ」を伝えられる保育士をめざして活動しています。

ー現在のスタイルにたどり着くまでの歩みを、お聞かせいただけますか。

三輪:保育士と幼稚園教諭の資格を取得できる都内の大学を2010年に卒業した後、2年間子ども園で働いていました。幼稚園生のころからずっとなりたかった職業だったので、毎日子どもたちと楽しく過ごしていました。

でも、当時付き合っていた彼との結婚を現実のものとして意識し始めた22歳のころ、「私にはまだ何かやり残したことがあるかもしれない」と強く感じたんです。友人に相談すると、「お金のために仕事をしなくてもいいという状況だったら、あなたは何がしたいの?」と。その時ふと思い浮かんだのが「海外で暮らしてみたい」という答えでした。

ーそれ以前に、海外生活のご経験は?

三輪:大学時代に2週間、ニュージーランドに保育留学をしたことがあります。それも忘れがたい思い出なのですが、海外の文化に触れた最初の原点は、実は日本での経験なんです。

幼いころ住んでいた自宅の目の前がアメリカンスクールで、私は在校生ではないのですが、小3から中3までの7年間、水泳部に参加させてもらっていました。当時通っていた学校では、男子・女子、先輩・後輩の線引きが強くて、その距離感をちょっと残念に思うこともありましたが、水泳部では性別や年齢が違っていても壁がなく、名前で呼び合える仲。日本語を話せる子が通訳をしてくれるなど、言語の壁を感じさせない温かさもあり、私はそのコミュニティが大好きでした。中学生になってからも英語はむしろ大の苦手でしたが、多様な人たちが居心地よく過ごせる文化への憧れは、色あせず残っていたんです。

ーそれにしても、幼いころからの夢が叶った矢先に、職を手放して、ゼロから海外で生活する。ずいぶん思い切った決断をされましたね!

三輪:せめてクラスの子どもたちが卒園するまでは……と悩みました。でも、みんなに伝えたい生き方はどちらなのかと考えたとき、「漠然とやりたいと願っているだけで行動しないまま終わるよりは、自分の心に正直に生きて、やりたいことをする姿を見せたい」と思いました。

振り返ると、それまではずっと、数年後まで見通しを立てられるよう、無意識のうちに前々から敷いておいたレールの上を進んで来たと思うんです。「何も決まっていない」という状態は、私にとってかなりの冒険でしたね。だから、決意が揺らがないように、お金を振り込んで、周囲にも次々と宣言したんです。そうしたら、もう行くしかないでしょう。(笑)

そうしたら不思議なんですけど、だんだん「あぁ、私いま、生きているなぁ」と感じるようになっていったんです。 「私は、何にでもなれるんだ。自分で選択できるんだ」と感じた瞬間、生きる楽しさみたいなものがこみ上げてきて。怖いというより嬉しかったのを今でも覚えています。

ーカナダを選んだ理由はありますか?

三輪:場所にこだわりはなかったので、留学カウンセラーの方の体験を聞きバンクーバーに決めました。当初は海外生活そのものが目的だったので、ワーキングホリデーで行ったんです。ワーホリビザでは保育系の仕事に就けないため、仕事とは別に、ボランティアとして子どもと関われる場を探していました。

でも、やっぱりもっとちゃんと子どもたちと関わりたいなと思って、色々ネットで調べている時に、現地で保育士として働く日本人女性を見つけて。実際に会って色々教えてもらうようになり、そこで、思い切って1年間のワーホリだけのつもりだった予定を変更。語学学校に3ヶ月間通ったあと学生ビザを取得し、MTI Community College(以下、MTI)に入学しました。

 

みずから選ぶ「自由」と「責任」。その学びを支えるカナダの保育士。

カナダのチャイルドケアセンターで子供が描いた絵ーMTI で1年かけて保育士資格を取得。その後は卒業生向け就労ビザ(ポストグラデュエイト)に切り変えて、現地保育園で1年間働いたのですね※2。カナダと日本、保育士になるプロセスや実際の現場は、どのように違いましたか?

三輪:まず、カナダは資格取得以前のフィールドワークが圧倒的に多いです。日本の大学では保育園や幼稚園に行けるのって実習くらいしかなく、実習の期間も各学年で7〜10日間ほど。学んだ内容と現場での経験がリンクしないことも多かったのですが、MTIではほぼ全教科と言っていいほど毎回実際に保育園に行っていましたし、実習期間も長く1ヶ月間に及びました。就職までに現場で様々な親子や保育士の方々と触れ合い、現場感覚を磨けるのは、大きな違いだと感じました。

ー子どもとの関わり方についてはいかがですか?

三輪:日本では、保育士が子どもと一緒になって遊ぶことを大切にする園も少なくないと思うのですが、MTIでは、レッジョエミリアの「保育士はオブザーバー(観察者)である」との理念に基づき、子どもたちの世界に割りこまない、子どもの遊びを奪わないよう離れたところから観察するという姿勢も大切にしていました。

例えば「一斉保育」の時間は、カナダでは「サークル活動」と呼ばれていますが、保育士が1人で前に立って子どもと向き合い、何かを教えるということはなく、保育士は子どもに混ざって1つの輪に入り、話しをするんです。その日その月に何をするかは、子どもたちの発案をもとに幾つかのプロジェクトを立てるのが基本。プロジェクトに興味があればジョインするし、なければスルーしても咎められません。日案、週案、月案といった細かい教案もありませんでした。

ー日本では、「3歳になったら、身近な動植物に興味を持ち、触れたり遊んだりする」「4歳になったら、時計や数字に興味や関心を持つ」など、各月齢における指導計画のガイドラインが細かく設けられていますが、カナダではずいぶん違うようですね。

三輪:根本的に違うのは「みんな一緒に・みんな同じように」が圧倒的に少ないことです。全員が揃うまで待つ、全員が同じように作った製作物を教室に並べて展示することもありませんでした。子どもたちは常に自分の気持ちを大切にでき、1日1日を過ごしていました。

カナダのチャイルドケアセンターに飾られた絵ー日本人の親は、「興味のあることしかやらなかったらワガママな子になりそう」「出来ることと出来ないことの差が大きくなって困るかも」「ある程度は我慢させてでもやらせないと」……とヤキモキしてしまいそうです。就学前保育・教育の段階で、これほど文化が違うんですね!

三輪:興味・関心の対象やアプローチのしかた、物事を進めるペースは、本来1人ひとり違います。そこをあえて修正したり平均化せずに、「その子らしさ」の尊重に力点を置いているのだと思います。

例えば、日本の園では読み聞かせの時に「姿勢は正しくね」と言ったり、一人でもきちんと聞いていない子がいると読み聞かせを中断して注意するような場面もあると思うんです。でもカナダの園では、寝転がって聞く子や先生に抱っこされながら聞いている子がいても注意されません。

ー日本では、しつけの一環として注意されるほうが一般的かも知れません。ある程度同じように行動してもらわないと困りませんか?

三輪:生きる力を育むという点では、日本もカナダも同じなのですが、アプローチが違うのかもしれないと感じました。「自分は尊重されている」という実感から、「他者を思いやる心」が芽生える。自分らしさを大切にできるからこそ、異なる他者も受け入れられる。だから、困るなぁと感じることはもちろんゼロではなかったですが、それよりも子どもたちを「私とは違う1人の人間」として捉えることのほうが大切だと思いながら日々子どもたちと過ごしてきました。

ー教育的介入をどこまで行うのか。秩序を重んじる日本とは大きく異なりそうですね。

三輪:保育士も、親も、子どもも「1人ひとり違う人間」。その違いを理解し合うために対話を重ね、お互いが納得できる着地点を探ります。遠回りなようですが、小さいころからその作業を繰り返す中で、「自由」と「責任」を学んでいくのだと思います。

ー幼少期からのそうした環境が、多様性豊かなカナダ社会を支えているのかもしれませんね。

 

自他共の個性が輝けば、多様性に対応できるチームワークが生まれる。

海外での保育経験について公園で雑談する三輪さんー海外に限らず日本国内でも、いまや言語・文化の違う子どもたちがいて当たり前の時代です。その多様性は今後もさらに広がっていくと予想されますが、対応に戸惑う切実な声も聞かれます。

三輪:そうですよね。でも本来は、言語・文化に関わらず1人ひとりみんな違うはずなので、どの国で保育士として働こうと、そこにどんな国籍の子どもがいようと、子どもとの関わり方の本質は同じだと思います。

ーしかし、現実問題、言語・文化の壁は厚く、一筋縄ではないようです。

三輪:わたしもまだまだ模索中ですが、子どもの心の動きを察知しようとすることが大切なのではないかな、と思っています。言語によるコミュニケーションに頼りきるのではなく、からだの向きや視線、ふとした表情など非言語面も丁寧に観察しながら、あらゆる方向にアンテナを張り、その子のことを知ろうとする姿勢が、子どもとの信頼関係を築く土台になっていくのではないかなぁと。

ー言語や文化が違うからといって、むやみにハードルを感じる必要はないのですね。

三輪:保育はチームワークだと思うんです。子どもは園の中だけで育つわけではない。その子のことを一番よく知る親御さんをはじめ、周囲のあらゆるリソースと、積極的に連携することが大切です。

ー保育業界で求められているインターナショナル・スキルとは、自他共の「ありのままの魅力」を輝かせ、活かしていける力と言えるかもしれませんね。  本日はありがとうございました!

子供と料理をつくる様子 お絵かきをする様子

※1:日本では「幼稚園教諭」と「保育士」の免許が分かれているが、カナダでは保育園と幼稚園の免許は共通。ただし1〜2歳児、3〜5歳児、障がい児という区分がある。
※2:ビザ申請条件などは当時のもの。最新情報は要確認。

<関連サイト>
Kodomo.bin website https://kodomobin.wordpress.com
kodomo.bin facebook https://www.facebook.com/Kodomobin/
ホイクホンシツ会議 facebook https://www.facebook.com/hoikuhonshitsu
コノビー website https://conobie.jp/user/777
すいっち website http://switch-kosodate.com/writer/miwahikari
育児の窓口 website http://babygoods.jp/members/hikari/

 

Dr.ビーバーの解説

保育園を飛び出し、地域社会を舞台に幅広く活躍する三輪ひかりさんのストーリー、いかがじゃったかな?

カナダに限らず、海外に一歩出ると、日本的な発想だけではなかなか見えて来ない保育の可能性が見つかるかもしれん。国内・国外、どちらで働くにしても、ぜひ海外の保育現場をのぞいてみることをお薦めするぞ!

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