第69回<変わる!公立中学>
すべては、自立した生徒を育てるために

麹町中学校工藤校長

宿題、定期テストの廃止、全員担任制の採用など、公立中学校の大胆な改革がテレビでも話題になっています。その学校の名は、千代田区立麹町中学校。校長の工藤勇一氏は、民間人校長ではなく、大学卒業時から公立校の教員としてキャリアを築いてきたというから驚き。著書、『学校の「当たり前」をやめた。』はベストセラー。工藤校長に、改革の背景について聞きました。

―工藤先生は、服装頭髪検査の廃止、宿題や定期テストの廃止、固定担任制の廃止など、従来の学校の常識を覆すような大改革をされていますが、その真の目的は何でしょうか。

工藤:教育の本来の目的は何だと思いますか? 私は、子どもたちが将来、社会でよりよく生きていけるよう、自立した大人に育てることだと思っています。それを上位目的として学校の在り方を見直し、不要だと思う制度やルールは、どんどん廃止していきました。

―改革によってどんなことが変わりましたか?

工藤:たとえば、定期テストをなくして、代わりに単元テストをしています。単元テストは、従来の中間・期末テストのように点数を上げることだけを目的にしているのとは違い、それまで習った単元をどれだけ理解しているかを確認するためのテストです。間違ったところは、自分で調べたり先生に聞いたりして確実に理解し、再テストに臨みます。一夜漬けてテストの点を上げても本当の実力はつきませんが、この方法なら習ったことは確実に定着することができます。

―固定担任制をなくして全員担任制を採用していますが、全員担任制ってどういうものですか? そんなことってできるのですか?

工藤:チーム医療がヒントなのですが、たとえば、教科だけでなくITが得意、保護者と話すのが得意、生徒の相談に応じるのが得意など、先生ごとに得意分野が異なります。それぞれ個性の異なる先生がチームを組み、得意を活かし、学年の全生徒をいっしょに見るという仕組みです。生徒は、何か相談したいときや、個人面談のときは、自分が好きな先生を選ぶことができます。

この仕組みによって、担任は一人で何もかも背負わなくてよくなり、生徒に向き合うという教師本来の仕事に集中できるようになりました。また、クラス間の風通しがよくなり、クラス間で点数を競い合うこともなくなりました。

―ほかにはどんなことをされましたか?

麹町中学校に着任してから、教師や生徒、保護者に、学校の改善すべき点を聞いてリスト化し、できることはすぐに実行してきました。全部で200、300ものリストがありましたが、本来の教育の目的に即したものであれば、即断即決で改善しました。

生徒の発案で廃止したことの一つに、運動会でよくある「クラス対抗」があります。本校の体育祭の目的は「全員が楽しむこと」です。クラス対抗で勝敗を意識すると、「全員が楽しむ」ということはできません。だったら廃止しようということになったのです。子どもたち自らが話し合ってそれを決めたことは素晴らしいと思いましたね。

―まだまだたくさんのことを改革されていますが、詳しくは本を読んでいただくとして、工藤先生が、これからやりたいことは何ですか?

工藤:最初に述べたように、学校は本来、子どもの自立を育てる場であると思っています。子どもたちが何か問題に直面したときに、どうしたら解決できるか自ら考え、周囲を巻き込みながら解決していく。そういう力を育てていきたい。そのためには、私たち大人が、子どもに手をかけすぎず、自分で考え、判断、決定、行動できる機会をたくさん与えたい。宿題の廃止も定期テストの廃止も、固定担任制の廃止も、すべてその目的のために行った改革です。

よく、「工藤さんだから、麹町中学校だからできたのだ」と言われますが、そんなことはありません。各学校が、どんな人間を育てたいのか、そのためには何が必要か、真剣に考え、本気でやろうと思えば変えられる。

麹町中学校の改革も、200ものリストに挙げられた小さな課題を一つひとつ解決することから始まったのです。小さな改善が積み重なって、大きな改革になる。学校が変われば、社会も変わる。そう信じています。

ビーバー教授の解説
麹町中学校の取り組み、いかがじゃったかな。これからの教育は、数値化できる能力(認知能力)よりも、最後までやり抜く力、やる気、リーダーシップ、協調性といった、数値化できない能力(非認知能力)が重要だと言われており、文部科学省がほぼ10年ごとに発表する次の学習指導要領でも強調されておる。

麹町中学校が目指す、「自立した人間を育てる」という目標にも通じるものじゃな。すべての学校が急に変わるわけではないが、「学校が悪い」「社会が悪い」と嘆いていても始まらんぞ。今いる環境でもできることがあるはずじゃ。自立した人間になるために、自分は何ができるか考えてみてはどうじゃろう。