第62回<トビタテ>
留学後の就活で惨敗してつかんだ “好きなことで食べていく”という道

大学生が留学をする場合、「留学後、帰国して就職できるのか」という不安を持つ人は多いのではないだろうか。大学3年次に休学して世界一周、その後、トビタテ!プログラムを利用して再度海外へ飛び出した田中昂佑(たなか こうすけ)さん。就活では一つも内定をもらえなかったが、「自分の経験には価値がある」と信じ、好きな道を貫いた。今は、エンターテイナーとして世界各国でダンス・パフォーマンスを披露している田中さんに、留学のいきさつやその後について聞いた。

ダンスで子どもたちを笑顔にし、夢を与えたい

孤児院でダンスのワークショップを開催。左側の少年が、ロジャーくん。

孤児院でダンスのワークショップを開催。左側の少年が、ロジャーくん。

―最初に、田中さんが海外やダンスに関心を持つようになったきっかけを教えてください。

田中:中学のときに、英語の授業で「We are the World」を初めて聞きました。この曲はマイケル・ジャクソンをはじめとするビッグアーティストたちが、アフリカの飢餓と貧困を救うために作ったチャリティーソングです。この曲をきっかけに、世界の問題に関心を持つようになりました。

中でも、今もベトナム戦争の頃にまかれた枯葉剤の影響に苦しむベトナムの子どもたちに衝撃を受け、彼らを苦しみから救える人間になりたいと強く思いました。そのためベトナム語を学べる高校に進学し、実際にベトナムにも行きました。

ベトナムでは、言葉が通じなくて苦労しましたが、ダンスを通じてならコミュニケーションができる。旅先で出会ったストリートチルドレンが、僕のダンスを見て笑顔になってくれたことが本当に嬉しくて、「世界中でダンスをしながら、子ども達に夢を与える」というのが僕の夢になりました。

―その夢には、どのように近づいていったのでしょうか。

田中:高校卒業後、国際的な大学として知られる立命館アジア太平洋大学へ進学しました。世界各国から留学に来ている学生と知り合ったり、長期休暇中に海外旅行をして、世界各国にネットワークを広げていきました。

大学3年のときに、もっとじっくり世界を見たいと思い、休学して世界1周旅行に出かけました。旅の様子や、旅先でのダンス・パフォーマンスをInstagramにアップしていたら、それを見たというフィリピンの孤児院のオーナーから、子どもたちにダンスを見せてほしいという依頼がきたんです。孤児院では、子ども達と一緒にダンスのワークショップを行い、ビデオを作成するというプロジェクトをしました。

メインで一緒に踊ったロジャーという少年が、「次は日本でコウスケと一緒にダンスをしたい!」という夢を話してくれてとても嬉しかったですね。

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大好きなダンスでは食べていけない……そのショックから立ち直るまで

アメリカでは、トップダンサーのワークショップに参加する機会にも恵まれました。

アメリカでは、トップダンサーのワークショップに参加する機会にも恵まれました。

―「ダンスで子どもたちに夢を与える」という田中さんの夢がかなったわけですね。

トビタテ!留学JAPAN(文部科学省が展開する留学促進キャンペーン)に参加したのはそのあとですか?

田中:はい。フィリピンから帰国した後も、旅とダンスを続けていたのですが、ダンスは自己流だったので、もっと本格的にダンスを学びたいという気持ちが強くなっていました。そんなときに友だちからトビタテ!留学JAPANのことを聞き、応募しました。

僕が提出した最終的な計画は、3カ月間、アメリカのダンススクールで本格的に学び、その後3カ月間、フィリピンの孤児院でミュージカルのワークショップをやるというもの。

アメリカでは、プロの俳優も学びにくるというトップクラスのダンススクールで学びました。自己流とはいえ、著名なダンサーのバックダンサーを務めたこともありましたし、ダンスには自信を持っていました。でも、ここでその自信は完全に打ち砕かれました。毎回のレッスンで、自分のダンスを披露して、先生の目にとまった何人かが選ばれ、皆の前で踊るのですが、僕が選ばれたことは一度もなかったのです。

自分にはダンスは向いていない。ダンサーにはなれない。そう認めざるを得ませんでした。ショックでしたね。

これからどうしたらいいのか、悩んだ末、「自分は子どもたちを笑顔にするエンターテイナーになろう。ダンスはそのためのツールの一つだ」と考えるようになりました。

友だちに勧められて、ストリートで踊ってみると、通りすがりの人が立ち止まり、僕のダンスを見て笑顔になってくれる。大盛況とまでは言えませんが、わずかながらも手ごたえを感じることができました。何より自分が楽しめたことが、この道でやっていけそうだという自信になりました。

アメリカでストリートパフォーマンスに挑戦。

アメリカでストリートパフォーマンスに挑戦。

アメリカ滞在の後、当初の予定どおりフィリピンの孤児院に向かいました。

孤児院の子どもたちは、災害で親を亡くしたり、貧困から親と離ればなれになったり、不幸な境遇にあるにもかかわらず、弱音を吐くことなく、サッカーや陸上などの大会でちゃんと結果を出すなど、いろいろなことに前向きに挑戦していました。

実はフィリピンに来てから、言葉が通じないことや、文化の違いなどのストレスから、高熱を出してずっと下がらず寝込んでしまったことがあるんです。でも、子どもたちの笑顔に元気づけられましたね。

孤児院の子どもたちとミュージカルを作りあげました。

孤児院の子どもたちとミュージカルを作りあげました。

トビタテの計画では、子どもたちにダンスを教えて、村人たちに向けてミュージカルの公演をするのが目標でした。最初はできないと言っていた子どもたちも、どんどん上手になって、子どもたちの可能性ってすごいなと思いました。打ち解けてくれると、子どもたちが将来の夢を語ってくれるようになったのも嬉しかったですね。ミュージカルにはたくさんの人が観に見てくれて大盛況のうちにプロジェクトを終えることができました。

留学後、就活で全敗。でも自分は絶対大丈夫という自信があった

―その後、どうやってエンターテイナーになったのですか?就職活動もされたのですか?

田中:帰国後、就職活動をしましたがどこからも内定をもらえず、「日本社会から否定されている」と感じました。でも、自分がやってきたことは価値がある、大丈夫だと信じていました。むしろ、内定が取れなかったことで、エンターテイナーとして生きていこうと決意が固まったのかもしれません。

―エンターテイナーとしてどうやって仕事を得たのですか?売り込みをしたりしたのでしょうか?

田中:InstagramやFacebookなどのSNSで、エンターテイナーとしての僕の活動を発信し続けていました。アクセス数を伸ばすためには、自分がどういう人間か理解してもらい、興味を持ってもらわないといけません。自分なりに勉強し工夫して、計画的に発信していました。

SNSで知り合った人たちの協力を得て、各地でワンマンショーを開催したり、講演依頼が来て自分の体験談を話したり。著名な芸能人から連絡が来たこともあります。お陰さまで、収益も上がっていて、少しずつですが、エンターテイナーとしてキャリアを積んでいるところです。

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挑戦し続けること、それによって成長することが大事

―自分で仕事を創っているわけですね! すごいと思いますが、将来不安はありませんか?

田中:不安がないと言えば嘘になりますが、就職したから安心だとも思っていません。人と比べる必要なんてなくて、挑戦し続けること、それによって自分が成長することが大事だと思っています。最終的には、自分で仕事を創って稼ぎ続けることができる人が勝ち残るのではないでしょうか。

―今後は、どんなことをしていきたいですか?

田中:今は国内での活動が多いですが、今後は世界中の人たちとつながって海外でパフォーマンスや講演をやりたいですね。

明後日からまたフィリピンに行き、孤児院の子どもたちとワークショップをする予定です。彼らを連れてワールドツアーをやれるといいなと思っています。

留学したからといって「必ず結果を出さなければ」と思わなくていい

―きっと子どもたちにとっても貴重な体験になるでしょうね。ところで、田中さんにとって留学とは何でしょうか。

田中:挫折を乗り越えて、新しい自分に出会える機会だと思います。

海外に行くと、言葉の壁、文化の違いなどから、大きな挫折を感じることが絶対にある。でも、だからこそ、じゃあどうしたらいいかと考え、努力して乗り越えようとする。その過程で、「自分ってこんな能力もあったんだ」と新しい自分に出会うことができると思うんです。僕は留学のおかげで強くなったと思うし、もうどんなことがあっても乗り越えられるという自信がありますね。

―これから留学をしようと思っている人へのアドバイスがあればお願いします。

田中:重く考えずに気軽に挑戦してみるといいと思います。

英語ができたらかっこいいとか、外国に住んでみたいといった、軽い気持ちでいい。とにかく海外に行ってみて、「言葉が通じない」とか「文化が違う」と感じることが大事。言葉が通じないもどかしさとか、悔しさとか、文化の違いからくる孤独感とか、行ってみないとわからない。

海外に行ったからといって、絶対に結果を出さなければと気負わずに、気軽に挑戦したらいいと思うんです。帰ってきてから、その経験を通して、自分は社会にどう貢献したいか、これからどういう人生を歩んでいきたいかを考えればいいと思います。

―勇気が出る言葉ですね。どうもありがとうございました!

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留学先で英語が通じなかった、文化の違いに戸惑ったなど、海外に行くと誰でもが壁にぶつかるものじゃ。強烈な挫折経験があるからこそ、それを乗り越えるという経験ができるし、強くもなれるんじゃな。「結果を出さなければと気負うより、まず海外を見ることが大事」という田中さんの言葉は、留学を迷う人たちに、多いに勇気を与えてくれるじゃろう。

留学後の就職も大きな不安の一つじゃが、田中さんのように、SNSを活用して自分を売り込んでいくという方法もある。田中さんの体験談は、みんなが就活をするからしなければと焦るのではなく、自分が本当にやりたいことは何なのか、突き詰めることが大事だと教えてくれる。留学は、そのいい機会になるじゃろう。